大阪高等裁判所 昭和40年(ネ)6号 判決 1966年11月30日
被控訴人 大阪第一信用金庫
理由
一、被控訴人は昭和三六年八月二五日訴外三星興業株式会社と手形貸付、手形割引等の方法により継続的に金融をなす旨の継続的金融取引契約を締結したところ、同社は被控訴人から手形貸付、手形割引を受けた場合手形債務と借入債務とを合せ負担するものとし、手形又は貸金債務のいずれによつて請求されても異議がない。右取引上の債務不履行のときは日歩四銭の割合による損害金を支払う旨を約した。
二、控訴人は、訴外小河達久の代理人として、前同日ころ右訴外会社が被控訴人に対し右取引に基づき負担する債務につき右訴外小河が同社と連帯してその債務を履行する旨の保証契約をした。
三、そして被控訴人は前記契約に基づき手形割引により昭和三七年三月六日右訴外会社より左記約束手形を拒絶証書作成義務を免除の上裏書譲渡を受け、支払期日に支払場所に呈示したが、その支払を拒絶された。
金額 金九〇〇、〇〇〇円
支払期日 昭和三七年七月七日
支払地振出地とも 大阪市
支払場所 株式会社三和銀行順慶町支店
振出日 昭和三七年三月一日
振出人 大島建設株式会社
受取人 三星興業株式会社
右被控訴人主張の一および三の事実は、当事者間に争いがない。
甲第二号証には、昭和三六年八月二五日付の被控訴人と右会社との本件金融取引契約の約定とともに同会社の保証人は右契約に基づく債務を同会社と連帯して履行する旨の記載があり、保証人として小河達久の記名があり、その名下の印影が小河の印章によるものであることは控訴人の認めるところである。しかし、《証拠》を総合すると、右甲号証の小河の記名およびその名下の印影は控訴人が小河に無断で記名し、同人の印章を押印したものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。
控訴人は、右記名押印は小河の使者としてしたものであると主張する。右主張が認められるには、小河が保証する意思を決定した上控訴人に小河の記名押印をさせたことを要するのであるが、前示認定のとおり右記名押印は小河の意思に基づかずになされたのであるから、右主張は失当である。控訴人は自分の意思によつて右記名押印をしたものであるから、右書面による意思表示は代理による意思表示であるというべきである。
そして、控訴人が右保証につき代理権を有していなかつたことは前記認定により明らかであり、小河が控訴人の右無権代理行為を追認したことは控訴人の主張立証しないところである。
控訴人は、被控訴人は右代理権のないことを知つていたか、または過失によつて知らなかつたと主張する。そして、当審における控訴人は、「被控訴人の係員大谷和夫が甲第二号証に個人保証の判をくれといつてきたが、自分は小河個人のことまでまかされていないというと、先方はとりあえず私に書いてくれ、後日小河の了解を求めるといつたので記名押印した」旨供述しているが、右供述部分は《証拠》に照らし、たやすく信用することができないし、他に被控訴人が右代理権のないことを知つて本件保証契約をしたことを認めるに足りる証拠はない。
そこで、被控訴人が右代理権のないことを知らなかつたことについて過失があるか判断する。被控訴人において控訴人に対しその代理権を証する書面の提出を求めるとか、小河本人に対し控訴人への授権の事実の有無を問い合せた形跡は認められない。しかし、《証拠》を総合すると小河は控訴人の妻の弟であること、小河は右会社の代表取締役であり、控訴人は取締役であつたが、小河は昭和三六年四、五月ごろから同年一二月ごろまで病気のため会社にはほとんど出ず、控訴人が右会社の経営を担当していたこと、甲第二号証に押印してある小河の印章は小河の実印であることの各事実が認められるから、これらの事情からして、被控訴人において代理権の有無について前記調査をしなかつたからといつて被控訴人が控訴人に代理権のないことを知らなかつたことについて過失があるということはできないし、他に右事実を認めるに足りる証拠はない(なお当審における控訴人本人の供述中自分に小河個人を代理する権限のないことを大和和夫に告げた旨の供述部分の信用できいなことはすでに判断したとおりである。)。
そうすると、控訴人は、被控訴人に対し、民法第一一七条第一項によつて小河の負担すべきであつたと同一の債務を履行する義務があるものといわなければならない。